甘辛い味がしみ込んだ不思議な食感
漁師町に伝わるマグロの胃袋料理
漁業が盛んな宮崎県・日南市の港にはマグロ、カツオなど多くの魚が水揚げされる。『ごんぐり』とはマグロの胃袋。『ごんぐり煮』とは、マグロの胃袋を甘辛く煮込んだ家庭料理だ。
調理法は、下ゆでしてから味を付けるという手順。生や一度冷凍されて解凍された『ごんぐり』をよく洗い、下ゆでしてやわらかくする。この時、サツマイモを一緒にゆでるのが昔から伝わるやり方だ。サツマイモは『ごんぐり』をやわらかくするのと同時に、特有の臭みを取るという役割がある。
やわらかくなった『ごんぐり』を適当な大きさに切り、醤油、酒、砂糖などの調味料を使った煮汁で煮込んでいく。醤油は日南ならではの甘めの醤油を使う。味付けに味噌を加える場合もあるようだ。『ごんぐり』と一緒に煮込む野菜は、タマネギが一般的だが、ネギ、ニンジン、ショウガなど各家庭によって様々。肉のような不思議な食感を持ち、甘辛い味わいは、ごはんの友にも焼酎にもよく合う。
生の『ごんぐり』は時間が経って古くなると匂いがきつくなってしまうため、冷凍技術が発達するまでは、獲れたてのものでしか作ることができなかった。新鮮な『ごんぐり』を手に入れることができる日南エリアで、『ごんぐり煮』が生まれ、広まった理由だ。
宮崎県のマグロ・カツオの県別漁獲高は国内で常に一位二位を争うほどだ。日南市の港である油津、大堂津、目井津は、宮崎県の中で古くからカツオとマグロの中心的な漁業基地。沖合数kmの近海から遠くは南米ペルーの沖合まで、マグロを追っている。
クロマグロ、キハダマグロ、メバチマグロ、ビンチョウマグロなど、新鮮なマグロが大量に水揚げされてきたことは、『ごんぐり煮』と深く関わっていることに間違いない。
また、日南では、マグロ・カツオ以外にもタイ、ウニ、タコ、伊勢エビなど一年を通して魚介類が豊富にそろう。新鮮な魚介類を安く買うことができる朝市も定期的に開催されている。
日南市には7軒の醤油蔵があり、中でも大堂津(おおどうつ)エリアには5軒の醤油蔵が集中している。
大堂津で80年ほど前から『マルタニしょうゆ』を作り続けている谷口醸造の谷口忠彦さんにお話をうかがった。
「九州の南、さらに海岸線では甘口の醤油が好まれているようです。漁師が刺身を海水で洗って食べるから、醤油が甘口になったとも言われていますね。南九州は焼酎文化圏だから焼酎に合う味わいということで甘口になったのかもしれません」。
南九州にあって、日南界隈はさらに甘口の醤油が好まれるのだそうだ。「50年ほど前に私の親父が作ったのが『太陽』という名前の醤油。これも甘口だったのですが、お客さんの『もっと甘く』という要望に合わせて、だんだん甘くなっていきました。初めが『太陽』だったので、『水星』『金星』『土星』ときて、『宇宙』まで作ったのですが、“もっと”ということで、宇宙から飛び出して『新世界』まで作ってしまいました。私たちが作っている中で、一番甘くて濃厚な醤油です。もっと甘いものもできるようにがんばります(笑)」。
生、もしくは解凍したごんぐりをよく洗い、サツマイモと一緒にゆでてやわらかくした後、食べやすい大きさに切る
タマネギを入れることが多いが、ネギ、ニンジン、ショウガ、ニラなど各家庭ごとに使う材料には違いがあるようだ
酒、砂糖、日南で好まれる甘めの醤油などで甘辛く煮込む。味噌を入れる家もあったり、甘さの違いがあったり家ごとに千差万別
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