2023.10.31

時代を映し、時代を酔わせた焼酎ブームの理由とは。

  • #歴史

ファッションや娯楽、食べ物や言葉など、さまざまなものにその時々の流行があるように、焼酎の世界にもまたブームがある。
「黒霧島」をはじめとした芋焼酎は、2000年代に大きく注目を浴びることになるのだが、それも含め戦後日本における焼酎ブームは3度あったと言われている。

第一次焼酎ブームは、1970年代後半。ウォッカ、ジン、テキーラなどの無色透明なお酒を楽しむ「白色革命」と呼ばれるブームが世界的に起こっており、それに呼応するように日本でも焼酎ブームが起こった。
鹿児島の焼酎メーカーは、6:4のお湯割りを勧める芋焼酎のCMを放映。高度経済成長を経て普及したテレビで流れるこれまでにない飲み方提案は、またたく間に人々の興味を惹きつけた。また、飲みやすさからそば焼酎が全国区に。
この時期に、焼酎市場は従来の約3倍にまで拡大することとなった。

1977年に発売したそば焼酎「そば霧島」

第二次焼酎ブームが起こったのは、それから少し経った1980年代前半。
安価でアレンジしやすいホワイトリカーが大ヒットし、居酒屋では「酎ハイ」や「サワー」がブレイク。「缶酎ハイ」もこの頃に初めて発売された。
また、すっきり爽快で飲みやすい麦焼酎も人気に。
バブル前の好景気に沸く時代のなかで、人々がよりカジュアルにお酒を楽しむようになったことがうかがえる。

1984年に発売したむぎ焼酎「ほ」

そして2000年代。これまで、地方で親しまれていた芋焼酎たちが次々と全国に羽ばたき、第三次焼酎ブームが起こった。東京では焼酎専門店や焼酎バーなどのオープンが相次いだ。
2003年には、焼酎の出荷量が53年ぶりに清酒を上回った。まさに歴史的大ヒットである。人気の高まりの中、入手困難なプレミアム芋焼酎も出現。焼酎愛好家として知られたフランス元大統領と、日本の元首相との外交の場でも芋焼酎が飲まれた。
空前の芋焼酎ブームは、霧島酒造の「黒霧島」も例外ではなく、一時期は需要に対する供給が追いつかないほどであった。
当時の営業チームは酒販店や飲食店に商品を十分に届けられないことをおわびし、状況を説明する毎日だった。

ブームというものは、社会全体を巻き込んだ大きく複雑なうねりだ。誰かの意図ひとつで起こせるような簡単なものではない。
しかし、理由のない場所に熱狂は生まれない。なぜ芋焼酎は第三次ブームの主役になれたのだろうか。

背景の1つには、進化した飲みやすさがある。
芋焼酎は、良くも悪くも原料の風味が残りやすい。昔は芋臭さや雑味があり、それがネックとなり万人に受け入れられるのはなかなか難しかった。
しかし、メーカーは努力を怠らなかった。原料であるさつまいもの品質や、製造技術を磨き向上させたことで、芋焼酎は飲みやすさを手に入れていたのだ。さつまいもの香りは“クセ”ではなく“コク”として再評価され、焼酎を飲み慣れていない人や女性にも広く親しまれるようになった。

各地のイベントで「黒霧島」の普及に奔走した「黒キリ隊」

またその当時、健康志向が高まっていたのも大きな要因だった。
糖質・プリン体ゼロ、血栓症予防効果といった焼酎に対する健康的なイメージがメディアでも取り上げられ、焼酎にポジティブなイメージを持つ人が増えたのだ。
「黒い食べ物=健康に良い」というイメージが広まっていたことも、霧島酒造にとっては大きな追い風だった。黒ゴマ、黒酢、黒豆…そこに続かない手はない。
黒霧島は『黒の焼酎』というイメージを打ち出すことで、他の芋焼酎とは一線を画するものとして、そのブランドイメージを確立させていった。

さらにブームを長引かせたのが、芋焼酎の持つ多様性である。
特定の銘柄のみが流行ったのではなく、プレミアムな芋焼酎から、リーズナブルなもの、独自性のある地方の小さな蔵のものまで多種多様な芋焼酎が共存し、ひとつのブームを作り上げていた。
また、芋焼酎にはさつまいもの品種や鮮度、熟成期間によって味が変わるという特性がある。そのため、自分の好みの味を見つけたり、シーンによって飲み分けたりと、人々は芋焼酎というカテゴリのなかで多様な楽しみ方を見出すことができた。
芋焼酎ブームが一過性のものではなく、奥深さを持った“文化”として定着し今日まで続いているのも、こういった理由が大きいだろう。

2003年発売当初幻とされた本格芋焼酎「赤霧島」

飲みやすさ、健康志向、そして多様性。
かくして芋焼酎を中心とした第三次焼酎ブームは起こったのである。こうして見ると、お酒の流行というものは、時代を映す鏡なのかもしれない。
お酒は生活必需品ではない。だからこそ人々がそこに求めるものは、食文化やライフスタイルの変化、またその時代の“気分”に大きく影響されるのだろう。

どんな時代も人の営みの側にあり、その時代の楽しいひとときを彩ってきた焼酎文化。
現在は、新たに「香り系焼酎」というジャンルが注目を集めており、バナナやマスカットといった特長的な果実のような香りをもった焼酎が次々と開発されている。
「香り系焼酎」は第四次焼酎ブームの火付け役になれるのか。次の時代の焼酎はなにを映すのか。そんな視点で今晩楽しむ一杯を選んでみるのも、また一興だろう。

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