30年以上前から、環境を守ることも焼酎造りそのものだった。
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焼酎づくりで一切無駄を出さない。それが、霧島酒造が目指す姿だ。
霧島酒造には、焼酎の製造工程で生じる芋くずや焼酎粕をリサイクルする国内最大級の設備「焼酎粕リサイクルプラント」がある。
このプラントを運用しているのは、グリーンエネルギー部。霧島酒造では30年以上前から、試行錯誤を繰り返しながら環境活動に取り組んできた。
グリーンエネルギー部の本部長である田原秀隆と課長である小林努が、これまでのことを懐かしみながら話してくれた。
「以前は、栄養分の多い焼酎粕を畑に散布し、肥料として循環させていました。しかし1998年頃に、行政から、その方法では今後難しくなるという話が出始めたのです」
理由は、焼酎粕が肥料分としての適正量を超えた際に、窒素分が地下水に混ざるという懸念があったこと。しかし、霧島酒造としては、肥料分として焼酎粕を活用したい気持ちがあった。
「手間やエネルギーをかけると、かえって環境に負荷がかかることがあります。一番いいのは焼酎粕そのままを有効に使ってもらうことなんです」
と田原が語るように、あくまで環境への負担を総合的に考慮したうえでの想いだった。
もちろん、肥料分としての規定は守っていたが、懸念を払拭するため新たに畑を借り、5年かけて実際に地下水にどのくらい窒素分が移動するかの調査まで行っていた。
調査の結果としては、規定量の範囲内で行えば、むしろ肥料成分としては足りていないほどで、健康被害も考えにくい結果だった。
しかし、流れを変えることはできず、2003年に肥料分としての焼酎粕の利用禁止が決まった。
グリーンエネルギー部は、既に次の手を考えていた。
焼酎粕をメタン発酵させて、その際に発生するメタンガスをエネルギーとして有効活用しようと考えた。
この時期、焼酎粕を飼料化して買い取ってもらってもいたが、そうなるとどうしても飼料の買い手、つまり外部要因に左右されてしまう。
持続可能性を考えた結果、あくまで社内で自己完結できる方法を目指したのだ。
メタン発酵による焼酎粕処理への挑戦は順風満帆とは言えないものだった。
そもそも焼酎粕は水分が約95%と高い割には、粘性が高く加工しにくいため、リサイクルすることが技術的に難しい。
2003年に現在とは違う方式で焼酎粕処理プラントの試運転を行ったときには、粕処理が上手くいかず、焼酎製造を1週間停止したこともある。ちょうど「黒霧島」がヒットしていた時期。痛い失敗だった。
そこで、以前よりメタン発酵の共同研究を行っていた鹿島建設(株)と共に、高温メタン発酵システム(メタクレス)の共同研究に乗り出した。メタン発酵のカギとなる菌は世界中から探した。
現在採用しているのは、フランスの海底から採取した火山性のメタン生成菌だ。
「もちろん現場での経験的にこうすればうまく処理できるはずという仮説はあったのですが、その通りには進みませんでした。実際に安定して処理できるようになったのは2006年の新しいプラントの稼働以降なんです」
そう話す小林からも当時の苦労が感じられる。
2012年には、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が買い取る「FIT制度」がスタート。
それまで、メタン発酵で得られたバイオガスは、工場のボイラー燃料に使用していたが、余剰のバイオガスが生じてしまっていた。
それを活用するため、2014年に発電設備を導入し、サツマイモ発電と名付けた。現在は1日2,400世帯分の電力を生み出している。
こうして振り返ると、これまで意思決定の根底にずっとあったのは、今だけではなく未来を見据えたときに、地域を、地球を守りながら焼酎を造り続けることができるかという点だった。
焼酎は自然の恵みの産物。地球環境を悪くすれば、結果的に自分の首を絞める。そう自覚しているのだ。
地域の人にとっても、霧島酒造があってよかったと思われる存在でないといけない。
その思いから、2019年には焼酎粕リサイクルプラントを見学できる「KIRISHIMA ECO FACTORY」をオープン。
現在は、お酒とは接点のない子どもたちにも、楽しみながらエコ活動に興味を持ってもらえるようなコンテンツの検討も進めている。
「焼酎を製造するかたわら、環境活動や地域貢献にも気を配っているということではなくて、霧島酒造にとって、焼酎製造の副産物である芋くずや焼酎粕を有効利用する活動は事業活動そのものです。その活動を通して、地域とともに発展していきたいんです」と田原は語る。
現在、芋くずや焼酎粕は100%リサイクルを達成している。ただ、現状に満足しているわけではない。
「世界的に環境への意識が高まり、SDGsや脱炭素が叫ばれている。得られたバイオガスをもっと有効に最大限活用する仕組みの実現を目指していきたい」
霧島酒造はこれからも事業活動として環境に向き合い続けていく。
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