2022.01.20

失敗は当然だ。その言葉があったから、「茜霧島」という夢を実現できた。

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今までになかったタイプの焼酎を開発したい。
試行錯誤の連続が「茜霧島」を生んだ。

桃やオレンジのような香りとフルーティーな甘み。
そんな焼酎の幅を広げる味わいで、女性を中心に人気を集めている「茜霧島」。
開発していた頃は、その華やかな味わいからは想像もできないほどの苦渋を味わう日々だったことは、あまり知られていない。
茜霧島の開発者である研究開発部課長の章超が、開発当時の様子や心境を語ってくれた。

「本当においしい焼酎を造れるのか、開発チームもやめるのか、続けるのか。かなり悩みました」
焼酎の原料となるさつまいもはいろいろと種類があり、適性というものがある。
しかし、今までになかったタイプの焼酎を開発したいと考え、あえて焼酎造りには向かないとされていたオレンジ系の品種である「玉茜(タマアカネ)」というさつまいもを使うことにした。

玉茜(タマアカネ)

試作でできた焼酎は甘く、フルーティーな香りがあった。だが同時に、ニンジンのような野菜臭がとても強かった。
なんとかそのニンジン臭を抑えたい。原料の組み合わせを変えたり、芋蒸しの時間を検証したり。開発チームの毎日は、試行錯誤の連続だった。
「何年も、改善する見込みがないまま実験を続けました。陽も短くなる11月末に、研究開発部全員で寒空の下で仕込み試験をしたことは、今でもよく覚えています。寒さも辛いですが、みんなを巻き込んでしまっていることを、何よりも辛く感じていました」
当時の苦悩を思い出したのだろう。章は表情を曇らせながら語った。

仕込みのために必要なさつまいもがなぜか全て腐ってしまったこともあった。
失敗も苦境も、数えきれない。会社が投入している費用も莫大になっていく。
苦しい。もうダメかもしれない。精神的に追い詰められていた章を救ったのは、上司の言葉だった。
「研究・開発は失敗が当然なんだから、納得いくまで続けたらいい。迷惑とか責任とか考えるな。でも、中途半端なものは要らない」
それを聞いて、本当に嬉しかったと章は言う。結果が出せていない自分を信じてくれている。
そこまで言われたら、やるしかない。何度も折れかけた心を奮い立たせながら、まだ見ぬ焼酎造りに取り組み続けた。

転機が訪れたのは、製造の工程を見直しているときだった。造ろうとしているのは、これまでにない焼酎だ。
それなら、これまでにない造り方を考えるべきではないのか。
工程を1つ1つ検証した結果、焼酎造りに欠かせない酵母に目をつけた。
まず霧島酒造が扱っていた酵母をすべて試したが、上手くいかない。
焼酎造りという“枠”だけで考えると、他に試すべき酵母はもうなかった。悩んでいたある日、「玉茜の茜色は、花と合いそうですね」という同僚の一言にハッとした。
“枠”を飛び出して考えれば、まだ試すべき酵母があるのではないか。
その考えが、成功のきっかけだった。
霧島酒造には観賞用サツマイモの花から単離し、独自で育種した「芋の花酵母」があったのだが、なかなか適した用途が見つからず、それまで活用できていなかったのだ。

芋の花酵母

仕込み試験で使用してみると、わずかだが手応えを感じられた。改良を続け、ようやく風味が際立つようになっていった。
「芋の花酵母」が醸す華やかでフルーティーな香りと、カロテン含有量が多い「玉茜」の相性がよく、お互いを引き立てることでバランスのよい味わいを出すことができたのだ。
こうして9年の開発期間を経て、「茜霧島」は完成した。

数量限定商品としてお店の棚に並びはじめると、女性を中心に評判が上がっていった。
そもそも「茜霧島」は、焼酎とは馴染みの薄い女性に飲んでもらうことを目指していたが、実際には男性や芋焼酎好きからもおいしいという声が上がることも少なくはなかった。

そして2019年。世界的にも権威のある酒類品評会「インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)2019」の「焼酎:芋焼酎部門」の最高賞を受賞。年々、評価は高まり、2020年からは通年販売に踏み切った。
2022年2月には紙パックのラインアップも新たに登場する。まさに、様々な人に愛される焼酎になったのだ。

いま、研究開発部には若い研究者が19名もいる。新しい焼酎を目指して、日々研究に取り組んでいるのだ。
「弊社の経営方針に『-チャレンジ-夢を育てロマンを実現できるグローバル企業をつくります』という言葉があります。
私は研究開発者として「茜霧島」で“夢”を育て、実現しました。みんなにも、同じように“夢”をもって、いろいろと挑戦して欲しいです」
目の前にいる若い研究者の姿に、章はもがきながらも挑戦しつづけた自分を重ねているのだろう。
そして、一人ひとりの“夢”の実現を信じているのだ。まだ世界にない焼酎は、彼らから生まれてくるに違いない。

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