2022.11.24

地元の人と、生産者と、読者と。 33年間いっしょにつくってきた広告がある。

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焼酎の広告は、いつしか、
宮崎の豊かな食文化への感謝を伝える企画になっていた。

『うまいものはうまい。』は、霧島酒造が大切にしている『焼酎文化は食文化の基にありき』という考えから生まれ、長年続いた新聞広告企画だ。
全5編ある中でもシリーズとして最も⾧かった『地どれまごころいただきま~す!』編。 この企画に携る制作スタッフだったカメラマンの高野典範さんとデザイナーのスガタユキヒトさん、そして当時担当していた企画室の山元翔馬に話を聞いた。

『うまいものはうまい。』の掲載から20年が経過し、取材回数も490回に達したときに始まったシリーズ。それが、『地どれまごころいただきま~す!』編だ。
テーマは、地元宮崎の旬の“素材”と“素材を支える人々”にスポットを当てること。地域ブランドの活性化と発展をお手伝いしたいと考え、産地の風土や素材の特徴、生産者のこだわりなどをシズル感たっぷりの写真とともに紹介した。
※飲食物の広告における表現で、美味しさや新鮮さを訴えかけ、食欲などを刺激する感覚のこと。

「 “地どれ”っていう言葉を特に意識してきました。地元の人に喜ばれるものにしないといけないと思ったんです」と高野さん。
メインとなる写真は、地元の人が一目で近場だとわかるように、素材だけではなく風景の入れ方にも工夫を凝らした。
「風景を入れると、その素材のおいしさを表現するだけじゃなく、“地どれ”というイメージが伝わるんです。地名も、正式な表記にはこだわらずに、地元に親しまれている地名で入れることが多かったです」とスガタさん。

また、連載を続けながら変化してきたこともあった。メインの写真に、必ず生産者の笑顔を入れるようにしたこともその一つだ。
「素材も素敵だけど、生産者の皆さんがすごくいいですね」という感想のお便りが多く寄せられたからだ。
「初めのうちは、集合写真を入れることはあっても顔を大きく入れていたわけではなかったんですよ。ただ、続けていくうちに、なんとか笑ってもらえる空気をつくって、必ず笑顔を撮るようにしていると、素材より生産者の顔の方が大事なんだなと思えてくるんです」と高野さんは言う。

この企画の原稿作成や取材調整を担当していたのは、霧島酒造の新入社員だった。旬の素材と生産者を探し、自ら段取りをつけて撮影に参加し、原稿を書いて、世の中に記事を出す。新入社員の登竜門的な存在の企画だった。
「大学でレポートしか書いてこなかったので、どうしても最初はすごく硬い文章になるんです。でも、自分が読んで面白いって思わないと、他の人も面白くないだろうなと考えたときから、少しずつ個性も出せて楽しくなってきました」と当時を振り返って山元は語る。

高野さんやスガタさんは自然と、そんな新入社員を教育する立場にもなっていった。
「分からないことも多いだろうけど、まず、どう撮りたい?何を伝えたい?って聞くんです。その話を受けて、こちらも意見を出して決めていました」とスガタさんは言う。
「あとは、この『うまいもの』を実際に食べてもらうことですね。“本当のおいしさがわからんと仕事にならんよ”って伝えてました」と高野さんは笑った。
生産者もあたたかく迎え入れてくれる方々ばかりだった。たくさんの料理を振る舞ってくださったり、その食事を囲んで楽しく話したりと、現場はいつも、和気あいあいとしていた。
「海が荒れて漁に出られなかったり、道が危なかったり、大変なこともいろいろ起きるけど、この取材は面白いんですよ。もう冒険ですよ。いろんなところに新入社員を連れて行けてよかったです」と嬉しそうに語る高野さんの表情からも、スタッフとの距離の近さが伝わってくる。

この企画は、読者の方から反応をいただくことも多かった。
一度の掲載に400件ほどのはがきをいただいたこともあった。イラストを書いたものや、写真を切り貼りしたもの、なかには原稿用紙2枚にわたり感想をしたためてくださったものまで。 取材に関わった生産者の中には、広告紙面を額縁に入れて、今でも大事に保管してくださっている方もいると聞く。

そんな反響をいただいていた『うまいものはうまい。』も、コロナ禍の影響で最終回を迎えることになる。
これほどの長い歴史に一度、終止符を打つ。どのような内容であれば最終回にふさわしいものになるか。思い入れを持ってくださった方に納得してもらえるか。山元を含め、当時の担当者は来る日も来る日も頭を悩ませた。
「33年間続いたこと自体もそうですし、それだけ多くの方が関わってくださったことに大きな感謝があります。宮崎の食の豊かさへの感謝を伝える記事にしないといけないと思いました。」と山元は語った。
最終回は、『地どれまごころいただきま~す!』編の取材先を全て載せた記事となった。

地元の新聞を中心に、月2回掲載し、全5編すべてのシリーズ合わせると33年間・計810回という⾧寿企画となった『うまいものはうまい。』。
企画としては幕を閉じたが、『焼酎会社のまなざしから食を伝える』という幸福な使命は、またどこかで形を変えて、地元のために、焼酎を好きでいてくれる人のために、これからも続いていくだろう。

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