2023.12.22

100年焼酎を造ってきた。暗中模索のノンアルコール商品開発の先に見えた、新しい景色。

  • #開発秘話

『発酵あまさけ 白麹仕込み』。霧島酒造が創業100年を超える歴史のなかで、ほとんど触れてこなかった領域であるノンアルコールの商品だ。
これまで焼酎メーカーとしての実績を積み重ねてきたなか、ノンアルコール商品を発売したその真意とは。開発メンバーである、企画室の山元里歩と研究開発部の瀬戸口翔に話を聞いた。

開発のキッカケは、「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」内にあるショップからの相談だった。
『ハンドルキーパーやお酒を飲めない方でも飲める商品がほしい』。
当施設は連日たくさんの観光客や地元の人たちで賑わうが、その多くが車での来訪。車を運転する人や子どもにも霧島酒造をもっと体験してもらいたい。そんな願いだった。
ちょうどその頃、研究開発部では麹の研究を行うなかで有望な機能性を持つ麹を発見し、食品利用を検討していたタイミングだった。その麹を使い、当時市場が拡大していた甘酒に着目し、試作・試飲してみると、その場にいた全員が手応えを感じた。こうして、霧島酒造の甘酒の開発が始まった。

立ち上がった開発チームには、甘酒に苦手意識があるメンバーは多かったそう。甘酒に馴染みがないメンバーでノウハウのない霧島酒造が、拡大を続ける市場で武器にできるものは何か。
たどり着いたのは「自分たちにしか作れない、苦手な人でも楽しめる、新しい甘酒のスタンダードを作ろう」という発想の転換だった。このチームだからこそ、これまで焼酎メーカーとして培ってきた技術を活かし、常識にとらわれない甘酒を造ることができる。向かうべき方向は決まった。

完成した商品『発酵あまさけ 白麹仕込み』は、白麹を使った甘酒だ。
甘酒に使われることが多い麹は、清酒造りで一般的に用いられている黄麹だが、焼酎造りでよく用いられ、クエン酸を生成する白麹を使うことで、さらりとすっきりした味わいを実現。さらに白麹の中でも、培養時間が通常より短い若麹を使うことで酸味が強く出過ぎないよう調整。従来の甘酒のドロリとした食感や甘みの強さが苦手な人にも飲みやすい甘酒となった。
当時の甘酒市場で、白麹を使った甘酒はほとんどなく、味わいの差別化も図れる。焼酎メーカーの発想が詰まった霧島酒造らしい商品となった。また「甘酒」の表現も、さらりとした優しい飲み口という特長から、漢字を使わず、さらに濁点まで取り『あまさけ』という商品名にすることにした。

発売にたどり着くまでには数えきれないほどのハードルがあった。
「苦労した点?何もかもすべてが大変でした」と、山元と瀬戸口は今でこそ笑い混じりに語る。
「甘酒の歴史や文化を一から学んだり、50種類以上の甘酒商品を飲み比べて独自の味わいマップを作ったり、社内外で試飲を行いアンケートを取ったり、その結果を踏まえて何度も試作を繰り返しました。社内に知見も経験もマニュアルも何もないなかで一歩一歩、手探りでの模索でした」。
しかしそれは開発チームにとって、決して辛いだけの日々だったわけではない。

「なんとか解決して少し前に進むと、また新たな課題が立ちふさがってくる。それの繰り返しでしたが、クリアできて視界が開ける喜びの連続でもありました。開発チームもみんな前向きで、『次はなんだ?』くらいの気持ちで楽しみながらやってましたね」。
長い歴史のなかで新しい試みがあれば、それに対し反発や逆風があってもおかしくないが、社内は甘酒の開発へとても協力的だった。社員に行った試飲アンケートには、味の感想とともに「開発に関われてとても嬉しい」「発売されたら子どもに飲ませたい」といった応援の声が寄せられ、それもまた開発の追い風となった。

現在『発酵あまさけ 白麹仕込み』は、「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」のみで販売している。
開発時の車を運転する人や子どもにも霧島酒造をもっと体験してもらいたいという願いを実現した“あまさけ”は、幅広いお客様にご愛飲いただいているという。
「2歳くらいの子が『発酵あまさけ 白麹仕込み』をおいしそうに飲んでいる姿を見たとき、頑張ってよかったなという気持ちが胸に込み上げました。」とふたりは嬉しそうに語る。
小さな子どもたちが霧島酒造の商品を飲む。これまでの霧島酒造ではなかなか目にしなかった景色を切り開いたのだ。もちろん、ここで満足して終わりではない。ノンアルコール市場という新たな道で叶えたい理想はまだまだ尽きない。
100年の歴史を超えて、次はどんな新しい景色を切り開いていくのか。霧島酒造の挑戦は、これからも続く。

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