
20年ぶりの麦焼酎、米焼酎。今だから造りたい味わいがあった。【後編】
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“芋”で磨いた技術と情熱。こだわりの焼酎造りを紐解く。
【前編のあらすじ】
むぎ焼酎『ほ』のリニューアルをきっかけに、これまで本格芋焼酎の開発で培った知見を活かした新たな麦焼酎と米焼酎の開発が始まった。
検討の結果、一般的に麦焼酎や米焼酎は原料の特性を抑えた飲みやすい商品が多いことから、原料本来のおいしさも感じられる味わいを目指し、開発を進めることとなった。
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酒質開発の中心となったのは、研究開発部の二人。麦焼酎を大西真人、米焼酎を瀬戸口翔が担当した。
特に試行錯誤を重ねたのが、焼酎に使用する酵母の選定である。

「これまで芋焼酎に使用するために研究してきた酵母の中から、今回の麦焼酎に適したものを何度も検証し選び出しました」と、『本格麦焼酎 霧島ほろる』の開発担当である大西は語る。
これまでの芋焼酎開発で調査した酵母の情報は数多くある。加えて、必要であれば自然界にある様々な酵母を採取するために、実際に海岸や花の咲いている場所に赴いて酵母を集め、さらに焼酎醸造に適したものになるよう酵母を選抜し、育てていく。それらの中から求めている味わいにぴったりな酵母を探すのは、多くの時間と根気を要する作業だ。
そこに原料である麦の香ばしい余韻を加えるための工夫も凝らした。特に注目したのは、蒸留方法と原酒のブレンド。蒸留工程では蒸留機内の圧力によって香気成分に違いが出る。それを活かせないかと考えたのだ。
「減圧蒸留は味わいが軽快なタイプ、常圧蒸留は濃厚なタイプによく用いています。今回は軽快な飲み口の中にもしっかり麦の香ばしさを感じられるものにしたかったので、減圧蒸留と常圧蒸留の2種類の酒質の原酒を製造し、それらをブレンドすることにしました」と大西。このブレンド比率が理想の味わいを実現した。

『本格米焼酎 霧島するる』は、2021年に宮崎で先行販売した芋焼酎『SUZUKIRISHIMA』の原料として初めて使用した「ふわり玄米※」と「霧島裂罅水」のみを原料として使用している。
一般的に流通している米焼酎や日本酒では華やかな果実香を引き出すため、米の表面を削った精白度の高い米が使用されることが多い。その一方で、「ふわり玄米」の特徴はあえて残した糖層。豊富に含まれる栄養成分の中のひとつが蒸留時の熱により深みのある香りを生み出す。
酵母を使って、メロンのような甘い果実香を最大限に引き出しながらも、「ふわり玄米」の旨み成分をいかに残すかにこだわった。
※「ふわり玄米」は霧島酒造独自呼称。

「ふわり玄米や麹、酵母といった原料に加え、造りにもこだわったことで、製造工程の課題がたくさん出てきました」と振り返るのは、『本格米焼酎 霧島するる』の開発担当である瀬戸口だ。
研究室で生まれた華やかな果実香と米の余韻を両立させた試作品と同じ品質・味わいを、現場の大きな工場で完璧に再現しなければならない。米の蒸し具合やもろみの発酵温度、原酒のろ過条件などを、何度も製造担当者と打ち合わせ、調整を重ねたという。

芋焼酎造りで培ったノウハウはパッケージにも表れている。
ネーミングには、味わいや飲んだ時の気持ちを情緒的に表現した擬音語を採用した。
「風、凪など自然を感じる言葉も検討していましたが、ダイレクトな表現だとこの商品のニュアンスや特徴がうまく伝わらないと感じました」と語るのは企画室の大岩。
一説には4000〜5000語あると言われている擬音語、擬態語の中から、それぞれの商品に合う言葉を探した。
ラベルデザインも、擬音語のネーミングに合わせ、それらを最大限に表現することのできるデザインを何パターンも検討した。ネーミングとデザインを別々ではなく、一堂に会し一緒に決めるという難しい仕事ができたのも、「味わい会議※」という伝統で培った霧島酒造ならではの技術といえるだろう。
※霧島酒造が、商品など新しいものを生み出すときに行う会議。
「味わい会議」についての記事はこちら

発売直後これまでの霧島酒造の商品とは趣の異なるネーミングに、社内外から驚きの声が多数あがった。今では、2つの商品を合わせた“ほろする”という愛称も生まれ、親しまれているそうだ。
「お客様から、『果実のような香りがして飲みやすい』、『名前の通りの味わいだね』といった声をいただけたときは嬉しかったですね」と、3人は誇らしげに語る。

約20年ぶりとなった麦焼酎と米焼酎の開発という大仕事から1年、大岩は今後について語った。
「『霧島ほろる』と『霧島するる』は、お客様に新しい霧島酒造を感じていただける商品になったと思います。これからも、芋はもちろん麦でも米でもどんな原料でも、これまでの枠にとらわれない、霧島酒造だからこそできるチャレンジングな商品を、どんどん生み出していきたいです」
いつもは芋焼酎を飲んでいる人も、今日はぜひ、こだわりの『本格麦焼酎 霧島ほろる』、『本格米焼酎 霧島するる』にチャレンジしてみてほしい。思わず心が“ほろっと”“するっと”とするような柔らかいひとときを、演出してくれるだろう。

※20歳未満の方へのお酒に関する情報の共有はお控えください。