「焼酎の里づくり」という言葉が、向かうべき場所を示してくれた。
- #歴史
焼酎の里が発信する「霧島体験」はどうあるべきか。
多くの人に愛される理由を紐解く。
宮崎県都城市には、子どもから大人まで、そして市民から観光客まで、幅広い層が集える場所がある。
それが「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」だ。
ここは、今でこそ多くの人に訪れていただけるようになったが、それは様々な試行錯誤の結果といえる。
支配人の那須一樹に話を聞いた。
1990年代、都城市には大型バスの観光客を誘致できる施設が少なかった。
一方で、霧島酒造の工場見学ツアーには一定の集客があったこともあり、地元に観光客を誘致できるような施設をつくろうという声が社内であがったのだ。
そして、1998年、ビール醸造設備やレストラン、ショップなどを併設する「霧の蔵ブルワリー」のオープンとともに「霧島ファクトリーガーデン」は始動した。
評判は上々。県外からのバスツアーやビジネス系の宴会利用者の呼び込みにも力を入れると、昼も夜も長い行列ができた。
せっかくのお客様だから、全力でもてなしたい。そう考え、本社からも応援を出すほどだった。
その後、施設の増改築や様々なイベントの実施を重ね、約20年かけて、年間のべ42万人もの人が訪れる場所へと成長した。
大きな転機を迎えたのは、2019年4月。
「霧島ファクトリーガーデン」という名称を「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」へと変更し、施設もロゴも一新したのだ。
志比田第二増設工場を建設するにあたって、工場見学施設や焼酎粕リサイクル工程の見学施設を整備、さらに外構整備も実施した。新しいロゴは、焼酎の里への想いをもとに再構築され、霧島酒造のシンボルである「霧島山」をメインに、焼酎やビールを生み出す霧島の自然の要素をミルフィーユ状に表現したデザインとなった。
霧島酒造のふるさとであるこの地で、植栽豊かな里山の空間に包まれて、くつろぎを感じていただきたい。
悠久の時と自然が醸し出す霧島の一滴を、お客様に感じていただける場所でありたい。
そんな想いを込めながらリニューアルが進んだ。
「一番大きな変化があったのは、私ども社員自身だったのかもしれません」
当時を振り返る那須から、そんな言葉がこぼれた。
施設やロゴの変化以上に社員にとって影響が大きかったのは、霧島ファクトリーガーデンへの考え方を整理したことだった。
その考え方のベースとなったのは、1986年頃に専務である江夏拓三を中心に考えられた「21世紀への焼酎の里づくり」という企画書だ。
この企画書は、空間開発に関わる考え方が記されているものだ。
「焼酎の里づくりという言葉が一つあることで、目指すべきところが共通認識として見えてきました」
例えば、それまでの工場見学はいわゆる焼酎造りの説明だった。
そうなると、工場見学の案内スタッフは、製造工程の現場での作業や数字を覚えて説明しなければならないという状況が必然的に生まれていた。
しかし、リニューアル後は違った。
製造工程の詳細を暗記して説明するのではなく、霧島酒造がこの地で焼酎造りをしている意味をスタッフが理解して自分の言葉で語るようになった。
「説明する人」ではなく、「ストーリーの語り部」となったのだ。
焼酎造りだけではなく、文化や風土まで伝える工場見学は、インバウンド対応にも通じるものとなり、海外の方への焼酎文化発信に貢献するという意識も芽生えてきたという。
工場見学と同様に力を入れているものとして、植栽がある。
歴史や伝統を感じさせる巨樹。
しなやかにすくすくと成長する竹。
椿やヤマザクラなどの季節を彩る花木。
地表を覆うツワブキやシダ類。
里山をテーマに四季を感じ、多彩な植物を楽しむことができる。
2021年にはこの植栽が宮崎県内で初となる「みどりの社会貢献賞」を受賞した。
「植栽の維持管理は大変なんです。植栽担当の方々が毎日頑張ってくださっているから、綺麗な状態で維持できています。植栽がただあるだけではなく、取り組み姿勢や、考え方、その維持管理を評価していただけたんです」
社員の努力が実を結んだ証を、那須は嬉しそうに語った。
「霧島ファクトリーガーデン」は、長らく霧島酒造の広告塔として、霧島酒造の企業姿勢発信に努めてきた。もともと意識が高く自発性の高い職場だったが、それに加えて「焼酎の里づくり」という考え方が整理されたことで、より明確な一つの柱が定まったように感じた、と那須は話す。
「焼酎の里から発信するサービスや体験を「霧島体験」と位置づけ、部内横断で「霧島体験」について意見を交わし合いました。レストランや工場見学、ショップなど「各サービスをどうするか」から、「焼酎の里において各サービスがどうあればよいか」という意識の変化につながったと考えています」
霧島酒造が造る焼酎は、みんなを楽しい気持ちにし、ともに語らせ、その時間に寄り添うもの。
「職場内でも「焼酎の里づくり」や「霧島体験」という言葉がゆっくりと浸透してきて、日常的に用いられるようになってきています。サービスごとにお客様へのアプローチは異なっても、考え方の根っこの部分が同じであることが、職場内に一体感をもたらしているように感じます」
一歩ずつ、しかし確実に前に進んできた「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」。私たちは今、新しく都城の地に根付く文化の始まりを目にしているのかもしれない。
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