2023.06.26

発酵と麹、さつまいもへの挑戦。そのレストランは霧島酒造の可能性を広げている。

  • #グルメ

ここでしか楽しめない料理やサービスを目指して、
飽くなき探究はこれからも続く。

霧島黒麹ランチ、ブラックカレー、発酵ポテトサラダ、宮崎ブランドきなこ豚のアンバー煮…。
「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」のレストランには、ここでしか食べられないオリジナルのメニューが多い。それを目当てに、地域の方だけでなく、遠方の観光客も訪れてくる。
そのメニュー開発や施設にかける思いを、レストラン課の京極和機と調理課の浦浪博史が語ってくれた。

1998年7月、クラフトビールの醸造設備が併設されたレストランとしてオープン。以降、焼酎に限らずクラフトビールなど霧島酒造の企業活動をお客様に体感いただくブランディング施設という役割を担ってきた。
「焼酎文化は食文化の基にありき」という企業姿勢にもあるように、食と焼酎のマリアージュを大切にする霧島酒造だからこそ、そのレストラン事業ではつねに新たなチャレンジが行われている。

「焼酎メーカーとしての軸があり、そこを期待されていると思っています。イベントごとに大事なポイントは変わりますが、メニュー開発のキーワードに“発酵”や“麹”、“さつまいも”があることは変わりません」
京極は、真剣な眼差しで語った。霧島ファクトリーガーデンのある都城は、宮崎空港と鹿児島空港のちょうど真ん中くらいにある。焼酎の里として訪れる観光地という側面もあり、頻繁に通える人ばかりではない。
「料理を通して私たちの焼酎造りへの思いを伝えることはもちろんですが、味や見た目のインパクトで楽しんでもらうことで、レストランにとってもお客様にとってもプラスに働くような関係性でありたいです」
そう語る京極は、これまでも様々なメニュー開発のアイデアを出して来た。
発酵を意識したメニュー、焼酎とのマリアージュを考えたメニュー、県産品を活かしたメニュー…。雑誌や専門誌の読み込み、県内外の飲食店の視察、様々な情報源から新メニューのアイデアを考える。それを、浦浪など他のスタッフと議論しながら、メニュー開発は進められるそうだ。

「最初の提案書を見たときに、無茶苦茶すぎて、できるわけないだろうと思うことはありますね」浦浪は、そう言って笑った。
ランチで人気のブラックカレーも、頭を悩ませたメニューだった。カレーは人気の定番メニューだが、それだけに差別化はむずかしい。霧島酒造らしさを考えた末、KIRISHIMA BEERを入れるアイデアが浮かんだ。
「スタウトという黒ビールを仕込みに使ってます。コクやまろやかさが出るんです」と京極。
浦浪は見た目にもこだわった。
「焼いた野菜を乗せるのは良くあるので、生の野菜に挑戦しました。お花畑のようなイメージですね」
メニュー開発には、高いハードルはつきものだ。それをクリアした先にこそ、オリジナリティあふれるメニューが待っていることを、二人はよく知っているようだった。

この取材の中で、京極から“空間満足度”という言葉が出て来た。コロナ禍を経て、飲食店の在り方は確実に変わっている。その時流を掴みながら、霧島酒造のブランディング施設として進化していけるかが問われている。
「料理の味だけじゃなく、場所も接客もサービスも、この空間を形成するものです。そのすべてでお客様の満足度を上げていかなければなりません」
一例として、5月〜9月には「霧の蔵ビアガーデン」、冬季には「霧の蔵“発酵”あったかブッフェ」などのイベントを開催している。そこでは、趣向を凝らした新たなメニューが披露されることも多い。
「発酵や麹をつかったメニューは珍しくないので、いつも頭を悩ませています。アイデアが浮かんでも、試してみると上手くいかない。それの繰り返しですよ」と浦浪。
あったかブッフェを初めて開催した時のメニュー開発では、“発酵”を活かしたメニューはもちろんだが、“あったか”をどう表現するかでかなり難航したそうだ。キノコを使った鍋料理を提供したいと考え、古今東西のキノコを集めた。おいしくて、ヘルシー。そんな鍋で、寒い冬を乗り越えて欲しい。

「自分が立ち上げた初めてのイベントでしたからね。計算しながらも、結果として仕入れ原価が高くなってしまいました」と京極は、当時の失敗を振り返った。何度も試食会を行いながら、なんとか理想のキノコ鍋を実現。その狙い通り、大きなインパクトを与えられたそうだ。
「ビアガーデンやあったかブッフェというイベントは、私たちの中ではチャレンジをする機会という位置付けです。ここで好評を得たものは、その後にランチやディナーに派生させていきます。だから、日頃からお客様の要望を把握して、このイベントで応えようと考えているんです」

2号店などの構想もあるのかと聞くと、京極は首を振った。
「私たちはまずはしっかりとこの地域で伝えていくことにこだわり、ファンづくりを行いたいと思っています。ここもまだまだ完成してるとは思いません。もっとやれることがあるはず。今はそれを追求するだけです」
浦浪も続けた。「私もまだまだ勉強中。料理の世界は、つねに進化しています。そのトレンドを掴みながら、発酵や麹、さつまいもの魅力を伝えられるようになりたいのです」
「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」は、焼酎メーカーのレストラン事業。だからと言って、伝統や歴史に引っ張られ過ぎてはいない。時代を見つめながら、地域と共に、新しい姿を模索し続けていく。その姿勢や意志が、ここでしか楽しめない料理やサービスに出ているのであろう。
焼酎の新たな可能性を広げる場所は、今日も大勢のお客様で賑わっている。

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