2024.03.22

芋焼酎メーカーがさつまいもの苗を育てる、畑違いの挑戦に迫る。

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さつまいもを襲う未曽有の危機。
農家とともに立ち向かう。

さつまいも生産を取り巻く環境に今、逆風が吹き荒れている。

霧島酒造が使うさつまいもは年に10万トン。栽培面積にして東京ドーム600個を超え、その莫大な量のさつまいもをすべて九州産にこだわっている。原料確保に奔走する原料部の中野隆紀は、神妙な面持ちで語る。
「元々、高齢化や後継者不足などにより、さつまいも生産農家の減少は問題として抱えていました。そんな折に、さつまいもの病気が発生してしまったんです」。

サツマイモ基腐病(もとくされびょう)。苗や土壌を通して菌が伝染し、さつまいもが腐敗してしまう病気だ。2018年以降、霧島焼酎の原料であるさつまいもを育てる登録農家も大きな被害を受けたこともあり、2014年頃は2000軒を超えていた農家数も1200軒に減少した。
このままでは、焼酎を満足にお客様にお届けできない。抜本的で火急の対策が必要だった。

2022年に生産農家の支援を行う特設チームが立ち上がった。
さつまいもを農家から集荷し、納入する仲買業者と意見を交換し合う「甘藷会議」など、元々交流の場は設けていたが、それだけでは足りない。
生産農家、仲買業者の方々とこれまで以上に密にコミュニケーションを取り、より強固な関係を築き、一丸となって対策にあたる必要に迫られていた。
そこで、さつまいも購入価格の見直し、病気に侵されていない種芋の確保、種芋を殺菌するための蒸熱処理装置の導入、ドローンでの農薬散布といった様々な対策を講じた。しかし、被害状況はなかなか回復しなかった。
「そもそも、サツマイモ基腐病が流行する前からさつまいも苗の不足という課題がありました。さらに、苗を確保するための作業も重労働で、身体的に負担を感じていました」と、30年近くさつまいも生産に携わっており、仲買会社の代表でもある髙田享浩さんは語る。

「霧島さつまいも種苗生産センター『イモテラス』」施設全景

生産農家の支えがあっての焼酎造り。霧島酒造は、より能動的なサポートを叶えるため大きな決断をした。
健全な苗を供給する「霧島さつまいも種苗生産センター『イモテラス』」の建設だ。

焼酎メーカーが、苗をつくる。文字通りまったくの畑違いな挑戦には、数えきれない苦労があった。ノウハウがないため、まずは苗づくりを一から学ぶ必要があった。
髙田さんの畑では、先んじて種芋と呼ばれるさつまいもから苗を増やす方法を実践していた。中野は実際に畑に赴き、アドバイスを貰いながら、その技術を学んだ。
しかし、いざ栽培を始めても、描いた通りにはいかない。猛暑の影響で、発根がうまくいかず、2000株近くを枯らしてしまったときには、中野も相当堪えたそうだ。
「ダメになった苗を捨てているときは、本当に落ち込みました。しかしそれと同時に、生産農家の方々は日々こんな思いで取り組んでいるのだと、身をもって実感することもできました」。
最新の設備でハウスの管理を行っていても、その日の温度・湿度によって細やかな管理が求められる。髙田さんは、長年の経験をもとに、多くのアドバイスをくれたそうだ。
「効率も大事だけど、細かい苦労もしなさいと。農家なら皆やっていることを伝えましたね」。

そんな苦労の日々を経て、2023年10月、ついに『イモテラス』で生産した苗の供給が始まった。
初年度は、切り苗換算で約250万本分の苗の供給を予定している。この苗から、秋には約2,500~3,000トンのさつまいもが収穫できる見込みだ。
この量も、霧島酒造で使用する全てのさつまいもの3%の量でしかないが、それでも霧島酒造や生産農家にとって、大きな希望であることは間違いないだろう。

今後、さつまいも生産農家として髙田さんが『イモテラス』に期待することを尋ねた。
「病気が落ち着いても、高齢化や人手不足といった問題は依然としてあります。生産効率を上げる機械や、作業が楽になる新品種の開発など、研究開発が進むと嬉しいですね」。
中野も頷き応える。
「“原料なくして焼酎はできない”。霧島酒造では長く言われ続けた言葉ですが、そのことを身をもって感じています。生産農家とともに、今後もさつまいも生産に真摯に向き合っていきたいです」。

長年の経験と生産技術を持つ生産農家。大規模な施設と最新の研究設備を持つ焼酎メーカー。
双方が、これまで培ってきた信頼関係のもとに手を組み、ひとつの目標に向かって互いの技術を惜しみなく出し合っている。
天照大神(アマテラスオオミカミ)から着想を得ている『イモテラス』。農家との縁をつなぐその存在はまさしく、さつまいもの未来を明るく照らすだろう。

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