2023.03.01

宮崎県最大の繁華街ニシタチを明るくしたのは、デザインの力だった。

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人と街と霧島をつないだフラッグは、
コロナ禍の街を応援し続けた。

宮崎市の橘通りの西側に位置する宮崎県最大の飲食店街、通称「ニシタチ」。その街路灯に掲げられ、通りを彩るのが『ニシタチ霧島フラッグ』だ。このフラッグ掲揚の企画に携わってきたニシタチまちづくり協同組合の齊藤友亮さんと、企画室の山口史倫に話を伺った。

ニシタチまちづくり協同組合と霧島酒造との関係は、協同組合発足時の2000年頃から始まっている。この頃のニシタチは非常に暗く、街路灯の整備事業が行われており、当時の組合代表が、代表取締役専務である江夏拓三に対し、街を何とか明るくしたいという熱い想いを語ったという。
その想いに深く共感した霧島酒造は、2001年より、ニシタチと宮崎県内のデザイナーの両方を盛り上げるという目的で、応募者を募り受賞作品を掲揚するコンペティション形式でフラッグデザインの公募を始めた。それが、ニシタチ霧島フラッグの取り組みだ。

「暗かった街がこの取り組みで明るくなったように感じます。台風対策で外した時には、なぜ外したのかという問い合わせもありました。それくらい、風物詩のようなものとして、フラッグがあることが当たり前になってきていると思います」と齊藤さん。

現在は霧島酒造社員として、ニシタチ霧島フラッグに関わる山口だが、以前は別会社のデザイナーとして、このコンペに参加する立場だった。
「地元宮崎を応援する企画で、制約も少なく、自由に自分のテイストを表現できるので、実力を試す場としてずっと参加していました。県内のデザイナーのみなさんと会える機会はそれほど多くないので、毎年のコンペ説明会は、同窓会のように交流を深める場になっていましたね」と山口は語る。

2001年から途切れることなく続いてきたこの企画だが、20周年を迎える2021年に、中止を余儀なくされた。新型コロナウイルス感染症拡大による影響だ。
「私達もニシタチと一緒に歩いてきたような気持ちでしたし、この企画を途絶えさせるわけにはいかないと思っていましたね。その一方で、この企画はまだまだ工夫の余地があると感じていました」と山口は言う。

コンペは開催できない。でも、何かできることはあるはず。そんな葛藤の中、倉庫の整理をしていると、過去約20年分の素晴らしいデザインのフラッグが眠っているのが目に留まった。もう一度このデザイン達に日の目を浴びてもらいたい。ニシタチで掲揚されていたフラッグをもう一度ニシタチで輝かせたい。その思いに駆られ、フラッグの再利用計画が動き始めた。

普段の買い出しなどで飲食店さんに使ってもらいやすいことや、利用してもらう様子を街の人に見てもらえることを考えて、フラッグはトートバッグとしてリメイクすることに。トートバックを使う店舗を募ると、募集はすぐにいっぱいになった。

「このバッグが、ニシタチに掲揚されていたというストーリーがやっぱりいいですよね、もらった方々も本当に喜んでくれました」と齊藤さんは言う。
「ここまでやってくれるメーカーさんってなかなかいませんよ。コロナ禍に入って、ニシタチの賑わいが無くなってしまったときに、1200店舗ほどの全てのお店に、頑張ってくださいってことで焼酎を1ケースずついただきました。そういった心遣いを受けて廃業を思いとどまったお店のママさんも実際にいるんです。霧島酒造さんには私たち組織としても感謝していますが、各店舗さんもやはり感謝を感じているみたいです。そんな思いの詰まったフラッグを見ると、元気をもらえますよね。このフラッグはニシタチのスピリッツですよ。」

1年の休止期間を挟み、2022年、ニシタチ霧島フラッグコンペは再開した。これまでは一貫して春夏秋冬をデザインのテーマに掲げてきたが、この年から毎年違うテーマでデザインを募ることになった。2022年のテーマは、協同組合のエンブレムに使用されている『HAPPY NIGHT』。季節感を無くした代わりに、ビビッドで明るい応募作品が多くなり、よりニシタチに寄り添ったデザインが増えた。

第20回ニシタチ霧島フラッグデザインコンペティション受賞作品

トートバッグ制作や、コンペのリニューアルをきっかけに、ニシタチでイベントを実施するなど、組合と霧島酒造とのコミュニケーションはより活発になってきた。
過去のフラッグもまだ倉庫に眠っている。今後はより多くの方にニシタチフラッグを知っていただけるよう、フラッグの形を変えて一般の方の手元にも届けられる施策を考案中だと言う。

「第2章が始まった感じと言いますか、今ガッツリとスクラムを組んでやってるんですよ。街ごとデザインするくらいの気持ちでこれからも一緒にやっていきたいです」と齊藤さん。

「デザイナーさんの気持ちも、霧島酒造の気持ちもどちらも分かるという自分の視点を活かして、今後はフラッグという枠にとらわれない形でも、デザインの力でニシタチの繁栄のお手伝いをしていきたいです」と山口。
誰もがうつむきがちだったコロナ禍に、顔を上げるきっかけにもなった街路灯のフラッグ。これからもニシタチの未来を明るく照らすシンボルであり続けるだろう。

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