2021.10.22

「おいしい」をつくる、守る。ブレンド技術は、焼酎の可能性だ。

  • #造り

重要なのは、人が感じる「おいしさ」。
「ブレンド」の奥深さと可能性を紐解く。

「1/1000の味の違いがわからなければ失格だよ」
ブレンダーとしても一流だった二代目社長である江夏順吉は、日頃から口癖のように言っていた。その姿勢を着実に受け継ぐのが霧島焼酎の味わいを担うブレンダー課である。
課長の上瀧正智もその一人だ。

焼酎のブレンドとは、商品の味わいを常にある一定の幅に保つこと。
タンクごとの焼酎の個性を把握し、普通の人ではわからない味わいの違いを見極め、適切な割合で混合して味わいを調整していく。もちろん簡単なことではない。

焼酎の貯蔵タンク

焼酎の味わいに影響する原料や製造工程内の要素は無数に存在しており、同じ味わいの焼酎を造ることは難しい。それを、ブレンダーは試行錯誤しながら“いつもの黒霧島”の味わいに近づけていく。
驚くことに、この一連のきわめて繊細な作業は、ブレンダーの感覚、すなわち官能評価によって行われている。

官能評価とは、人間の五感である視覚・味覚・嗅覚、聴覚、触覚を用いて特性や差異を評価すること。
分析機器と比べて、再現性や精度が劣る官能評価をなぜ行うのか。この問いに上瀧は答えた。
「焼酎は嗜好品です。結局のところ、重要になるのは人が感じる『おいしさ』なんですよね」
機械で測定したデータをブレンド作業に使用しないわけではない。機器分析により、どの成分がどの程度含まれているかが分かれば、味わいの指標の一つにはなるからだ。しかし、この指標通りに調整しても、思い描いた通りの味わいにならないこともある。

味わいを左右する香りの成分数は多く、香りによっては他の香りを隠してしまい感じにくくする作用があったり、組み合わせ次第で香りがより強くなったりする。さらに、成分としてまだ特定できていない香りは、そもそも機器では分析できない。
やはり最終的には人間の感覚的なところでしか霧島酒造の焼酎のおいしさは生まれないのだ。

これほど重要な役割を担うブレンダーだが、ブレンダーになるために、持って生まれた特別な能力が必要かというと、意外にもそうではないという。上瀧は、研究開発の部署にいたときに、当時のブレンダーに声を掛けられたことがきっかけでブレンダーになった。

特別な能力を持っていたわけでも、特別香りに気を配って生活していたわけでもない。様々な訓練を積み重ねることでブレンダーとしての技術を身につけたのだ。
味や香りに敏感であるに越したことはないが、それ以上に大事にしているのはブレンダーとしての訓練をしっかり積むこと、能力を磨いていくことだ。訓練の内容としては、繰り返し焼酎のサンプルをテイスティングし、それぞれどういった違いがあるのか、その違いはなぜ生まれるのか、製造工程と照らし合わせて確認していく。香りのサンプルが手に入るものは、その香りを覚えることも怠らない。香りを覚えることで、何か違いがあった場合に原因はどこなのか、成分が頭に浮かびイメージしやすくなるからだ。

リンゴやバナナ、バラ、ヨーグルトなど身の回りにある香りもしっかり覚えていく。商品開発やプロモーションにおいて、その香りをどのような言葉でお客様に分かりやすく伝えるか、その表現もブレンダーがカギを握るからである。
感覚を研ぎ澄ますために、平日はカレーやコーヒー、にんにくなどの刺激物は口にしない。万が一食べてしまった場合は、その日の仕事ができなくなるため、普段の生活でも常に気を配る。
こうして訓練を積むなかで、様々な香りを記憶する力、焼酎の味わいを識別する力を磨き、さらにはその両面の力を掛け合わせて的確に判断する力を身につけることで、霧島酒造のブレンダーたり得るのだ。

味や香りを評価し、調査すること、そして、それをどう表現するか考えることが、ブレンダーの基本となる業務だが、他にも業務は多岐に渡る。
味を見るだけでなく商品開発にも積極的に関わるため、製造工程への理解や、発酵などの専門的な知識の理解も求められる。

「ブレンダーは評論家ではないんです。霧島酒造の一員としておいしい焼酎を造るためには、ただただ評価するだけではいけないと常日頃から思ってます」と上瀧は語る。
コロナ禍で機会は減ってしまったが、以前は実際に飲んでくださっている方や販売するお店の方と話をする機会も多かった。その際にどのような料理に合うのか、どのような飲み方をすればいいのかに強く興味を持ってもらえていることを肌で感じていた。その経験を踏まえて、ブレンダーだからこそできる食と焼酎のマリアージュ提案や飲み方提案も行っている。

日々の訓練で培われたブレンド技術とブレンダーならではの視点、そしてブレンダーの枠におさまらずにおいしい焼酎を追求する姿勢。いつものおいしい焼酎、まだ見ぬ新しい焼酎を待つ人のために。
霧島酒造のブレンダーは、これからも焼酎の可能性を広げるため、ブレンド技術を追求し続ける。

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