基礎であり奥深い。焼酎の可能性を探究する「麹造り」の現場とは。
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時代を先取る自動化と、地道な研究。
「麹造り」から紐解く、霧島酒造の歩み。
「麹の研究って、本当に地味なんですよ。」
苦笑しながらそう語るのは、研究開発部の瀬戸口翔だ。
インド洋で発生した湿潤な空気が東南アジアを経て流入するアジアモンスーン※の影響を大きく受ける日本では、この気候が育んだ独自の微生物を活かした発酵食品文化が発達している。
※モンスーンとは季節風のこと。広義では、季節風に伴う雨季のことも指す。
なかでも麹菌は、日本の「国菌」(2006年10月に日本醸造学会が認定)とされ、酒造りにおいて「一麹、二酛、三造り(いちこうじ、にもと、さんつくり)」と言われるほど、大切な存在である。
焼酎造りに用いられる麹は主に黒麹と白麹だ。
霧島酒造の商品を例にとると、黒麹を原料に使用した黒霧島はキレのある味わい、主に白麹を使用した白霧島はやわらかな味わいをイメージするが、意外にも風味の面で見ると、麹の種類による差はそれほど大きくないと、瀬戸口は言う。
もちろん麹によって違いがないわけではないが、味わいを大きく左右するのは、さつまいも、麦、米などの原料と、麹がデンプンを分解して生まれた糖をアルコールに変える酵母。
商品開発において、麹を選定する際は、原料、酵母と掛け合わせた時の“相性”を決め手にしていると瀬戸口は話す。"相性”の良い麹を採用することで、目標とする香りや味わいを最大限に引き出すことができるのだという。焼酎造りにおける麹は、絶対に欠かせない基盤でありながら、原料や酵母の引き立て役でもあるのだ。
一日に約80トン。これほどの量の米から麹を造っているメーカーはそう多くないだろう。
霧島酒造がこの量を仕込む会社へ成長した理由のひとつとして、工場のオートメーション化にいち早く取り組んだことが挙げられる。
無類の機械好きだった先代社長の江夏順吉(えなつ じゅんきち)は、社長就任後すぐの1949年には杜氏制度を廃止し、工場の近代化を推し進めた。順吉の技術にかける情熱の集大成となった、1986年竣工の志比田工場には蒸した米に種麹をまぶし麹をつくる工程を完全自動制御する自動製麹機を導入し、1991年には本社工場も自動化させた。
それだけ長い期間をかけて麹造りの自動化に挑戦してきたのだ。
人力での作業もまだ多かった時代も知る製造本部の櫻井斉は語る。
「当時は夜通し交代で麹の監視・手入れを行う管理夜勤という仕事があり、人の手で、目で、麹の世話をしていました」
自動製麹機が導入されてからは、作業する人による品質差がなくなり、年間を通して均一で高品質な麹造りができるようになった。
しかし、機械化、自動化したからといって、人が必要でなくなったわけではない。
『焼酎は五感で造るように』。現社長の江夏順行(えなつ よりゆき)の言葉だ。
見て、触って、食べて…、人の感覚で確かめる。機械が行ってくれるのはあくまでも作業である。
製造本部では、実際に社員が麹を食べて酸度を当てるクイズ形式で、製造現場での経験が少ない若手社員の舌を鍛える教育を行っているという。
「分析をして数値を確認することは誰にでもできます。しかし分析が出る数時間を待たずに、すぐに自分の五感で異変に気づくことができれば対処できる。どれだけ技術が発展しても、数値では測れない人の感覚を大切にするスキルや姿勢が、霧島酒造の製造を担う上で、必要だと考えています」と櫻井。
近年発売した『SUZUKIRISHIMA』は、研究開発部と製造本部の麹造りにかける想いが実った商品だ。
独自開発の「ふわり玄米※」は、最適に精白した玄米で、糠層に含まれる成分により、複雑で深みのある香りを醸すのが特徴の新しい麹原料。主原料である新品種のさつまいも「スズコガネ」、独自開発した「エアリアル酵母※」と掛け合わせることで、かろやかでありながら深みのあるうまみを実現している。
※霧島酒造の独自呼称
「ふわり玄米の話を最初に聞いたときは、『え?本気?』と少し困惑しましたけどね。」
櫻井は笑い混じりにそう語る。普段、麹に使用している米はしっかりと精米されたもの。それを玄米で行うには、麹造りでとても重要な、浸漬・吸水・蒸しの過程を大きく見直す必要があった。
研究室で成功しても、実際の装置で何トンという規模でやるには、厳密で細かな調整が必要になる。研究開発部と試行錯誤を重ね、温度や時間の調整を行った。
新たな麹には、製造技術の進化も欠かせない。難しいオーダーにも、製造本部は全力で応える。
「麹は日本が世界に誇る文化のひとつです。麹造りの技術を磨いていくことで、世界中で愛される商品を造っていきたいです。」
新たな麹を探究し、焼酎の可能性を広げる研究開発部。
受け継がれた技術と鋭い五感を駆使し、麹の品質と生産効率を高める製造本部。
霧島酒造の麹造りを支える両輪は、お客様に幸せなひとときを届けるため、奥深い麹の世界と、今日も向き合っている。
※20歳未満の方へのお酒に関する情報の共有はお控えください。