2024.10.01

約15年間、情熱が消えることはなかった。それほどに、魅力的な一杯だった。

  • #開発秘話
  • #造り

眠っていたのは可能性。
ひとつの樽が拓いた、芋焼酎の新たな世界。

一際目を引く琥珀色の輝き。それは、芋焼酎の原酒を樽でじっくりと熟成させた『霧島MELT(めると)』シリーズだ。
2006年と2017年に数量限定で販売した、知る人ぞ知る『黒霧島MELT』に、『赤霧島MELT』『茜霧島MELT』がラインアップとして加わり、2024年4月にリニューアル販売した。
黒霧島、赤霧島、茜霧島を樽に入れて熟成させる『霧島MELT』シリーズの完成に至るまでには、どのような物語があったのだろうか。

「始まりは今から約15年前、貯蔵タンクの横に保管されていた1つの樽からでした」
そう語るのは、当時ブレンダーに就任したばかりであった精製本部の上瀧正智だ。
樽の中身は紫芋を使った芋焼酎。長期間の樽貯蔵を経て、美しい琥珀色に輝く原酒を試飲した瞬間、上瀧は心を掴まれた。
「こんなに魅力的な香りをまとったお酒があるんだなと、感動しました」
一般的な芋焼酎とも、ウイスキーやブランデーとも違う個性的な味わいで、「このおいしさを多くのお客様に届けたい」という気持ちが高まった。
しかし、当時は現在よりも焼酎の製造量が少なく、新商品の開発に原酒を回せる状態ではなかった。生産体制が安定し、開発に着手できたのはそこから数年後のことであったが、その間も、上瀧の開発に対するモチベーションが下がることはなかったという。

工場の増設などで焼酎の製造量が増え、ようやく樽貯蔵製の芋焼酎の開発に取り組める状況になったが、そこからも決して順風満帆ではなかった。樽貯蔵ならではの壁が立ちはだかったのである。
通常、新商品の開発に取り組む際は、まず少量の試作品を造る。その試作品を上層部がテイスティングし、その味わいを評価した上で正式な開発の承認がおりる。
しかし、この時点では、容量が数百リットルあるような大きな樽しか調達できず、開発承認なしで造るにはあまりにも量が多すぎる。
なんとか少量で試作品を造る方法を探してたどりついたのが、樽を削った際に出る木のチップを、芋焼酎に漬け込むという方法だ。少量の焼酎で試作できる上、原酒と接する木の表面積が増えることで、樽に貯蔵した場合の酒質に近いものを短期間で造ることができる。
「ウイスキーなどでも広く使われている木材であるアメリカンホワイトオークは、樽メーカーが樽を作る過程で発生するチップを活用しました。それ以外に桜や栗、クスノキなど樽材として一般的に使われない木材は、試作に必要な量のチップを確保するため、ブロック状の木片を自ら彫刻刀で削り出しました。筋肉痛になったことを、今でもよく覚えています」と、上瀧は当時を思い出しながら語る。

先行して販売していた『黒霧島MELT』はアメリカンホワイトオークの樽のみで熟成させているが、『赤霧島MELT』と『茜霧島MELT』はアメリカンホワイトオーク樽に加え、シェリー樽、フレンチオーク樽など複数の樽で熟成させることとなった。

樽で熟成させることで、芋焼酎はどのような味わいに変化するのだろうか。
「一番の特長は、樽由来のウッディな香りです。また、樽の内面を焼くチャーリングという作業によって、バニラのような風味が出やすくなり、まろやかで深みのある味わいになります。一方で、今回使用している芋焼酎の原酒は、個性や魅力がしっかりと感じられますので、その味わいが樽の風味により隠れてしまうようでは意味がない。どんな樽で、どれくらいの期間熟成させるのがベストか、たくさん検証を行いました」

熟成期間については、『赤霧島MELT』だと1~3年のものをブレンドしている。
「樽の種類に加え、新品の樽か古い樽か、樽を置く棚の位置が高いか低いか、それらの細かい条件によって、熟成の早さや酒質のバランスが変わります。樽のコンディションによって熟成年数を変えたり、それぞれ個性の異なる原酒をブレンドすることで、味わいを整えます」

そんな努力や検証が実を結び、「黒霧島」「赤霧島」「茜霧島」それぞれの原酒の特長を活かしながらも、より樽由来のとろけるような味わいを持つ酒質が実現した。
お客様の反応も良く、「樽のお酒は飲み慣れなかったが、これは華やかで飲みやすい」「それぞれの原酒の違いが感じ取れておいしい」と言った声も届いているそうだ。

「もっと樽貯蔵の可能性を探っていきたい」と、上瀧は語る。
様々な樽の組み合わせやブレンドでどのような味わいが生まれるのか、他の芋焼酎や麦焼酎、米焼酎ではどうか。樽との出会いによって広がる本格焼酎の可能性は、その情熱が続く限り、尽きることはない。

この記事をシェアする

※20歳未満の方へのお酒に関する情報の共有はお控えください。