不知火海が育んだ太刀魚を
甘辛いタレのかかった天丼で
熊本県の西側に位置し、九州本土と天草諸島に囲まれた八代海。別名『不知火海(しらぬいかい)』とも呼ばれるこの海は、魚介類の宝庫でもある。波がおだやかで温暖な気候の内海では、海水中の養分が豊富なのだ。豊かな自然は極上の太刀魚も育む。外海に棲息する太刀魚よりもやわらかな食感になるのだそうだ。太刀魚はウロコがなく、輝く銀色の薄い皮におおわれているので、表面を傷つけずに三枚におろすのには注意と技術を要する。しかし、料理人たちは丁寧にさばいて料理する。
太刀魚は1年を通して獲れるため、芦北、津奈木、水俣など沿岸各地では昔からよく食べられている。刺身、塩焼き、煮付けなどはもちろん、天ぷらも美味。熱々のごはんの上に揚げたての天ぷらをのせ、上からタレをかけたものが『太刀魚丼』だ。サクッとした衣の中はふんわりとろけるようにやわらかな太刀魚の身。作り手の工夫によって作られる醤油ベースの甘辛いタレが、淡白でくせのない身の味わいをより引き立てている。
太刀魚は、地元では親しみも込めて『太刀(たち)』と呼ばれることが多い。それほど不知火海沿岸ではよく知られており、地域に密着している食材なのだ。
■太刀魚漁について
太刀魚漁について芦北町漁業協同組合田浦(たのうら)支所の上村雄二さんにお話をうかがった。
「漁は朝が早くて、午前5〜6時頃に港を出ます。仕掛けは一本釣りでエサはサンマなどを使うんですよ。すぐに弱ってしまう魚なので、船に揚げたらすぐに締めなければなりません。それから、釣った後にできるだけ触らないようにもしなければなりません。ウロコのない魚で表面は薄い皮ですから、触った跡がついてしまうんです。ロープなどがあたるとその跡もついてしまいますね。漁は1年中できますが、春の終わりから夏にかけて、メスには卵が詰まっていてまるまるして美味しいですよ」。
当日の朝水揚げされたという太刀魚を見せていただいた。魚屋さんなどでは見ることのないような鮮やかな銀色だ。
「時間が経つと表面にシワがよったようになりますが、これはまだ新鮮で鏡のように光ってきれいでしょう?太刀魚は太刀を構えた時のように立って泳ぐことからその名がついていますが、泳いでいる様子は輝いていてとてもきれいですよ」。
「歯は鋭くて手で触れただけで手が切れてしまいますから、用心しないといけないですね。不知火海は内海。内海の太刀魚は味わい深いのです。特に美しく肉厚なものを私たちは『田浦銀太刀』と呼んでブランド化しています。私たちは太刀魚のことを『太刀』と呼んでいますから、銀色に輝く太刀魚ということで『銀太刀』なわけです。太刀魚は刺身、塩焼き、煮付け、天ぷら…どんな料理にしても美味しいですよ」。
料理する前に三枚におろしておく。ウロコはないが、表面の皮をはがさないように丁寧にさばくことが必要だ
いわゆる天ぷらのツユではなく、醤油ベースの甘辛いタレが使われる。作り手の個性と工夫が一番現われるところだ
さばいて適当な大きさに切った太刀魚の身に衣をつけて油で揚げる。それをごはんの上にのせてタレをかければできあがりだ
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