九州の味とともに 夏

鹿児島 ながらめの味噌焼き

アワビに似た種子島の珍味
身の歯応えと甘味を包む味噌の風味

ながらめ』はアワビの仲間の一枚貝。正式な名称は『トコブシ』だが、種子島では『ながらめ』と呼ばれ古くから親しまれている。その由来は、岩場にはりついている『ながらめ』が逃げる際、素早く逃げる様子が“流れる”ように見えるからとも言われている。

もっともよく知られている『ながらめ』の、食べ方は“味噌焼き”。殻から外した身を切り、肝と一緒に殻の上にのせる。そこに醤油や、みりんを加え味付けした味噌を塗って焼くという料理だ。コリコリとしているが、やわらかい食感と、じんわりと感じる身の甘みに、焦げ目がついて香ばしい味噌の味わいがからみつく。口の中でとろけるような肝の旨味も、また格別だ。見た目と同様、味もアワビに似ているが、身はアワビよりも甘く、やわらかい。味噌焼き以外では、塩焼き、醤油煮、天ぷらなども美味しい。漁が解禁されている5月〜8月には新鮮な『ながらめ』を使った『ながらめの刺身』も食べられる。

『ながらめ』は、以前は豊富に獲れていたそうだが、近年は獲れる量が減少したため、島内でも特別な時に食べる高級な食材となっている。さらに、島外には、ほとんど流通していない。種子島でしか味わうことのできない珍味なのだ。

ながらめ

■ながらめについて

種子島漁業協同組合の脇田哲郎さんに『ながらめ』のお話をうかがった。
「『ながらめ』は、瀬にある岩の見えないところに、くっついています。『クシ』と呼ぶ柄が長い“J”型の道具でひっかけて獲ります。潮が引いた時が水深も浅くなるので獲りやすく、漁師さんたちが素潜りで獲っています。見た目からは想像できませんが、岩を這うようにして逃げる時のスピードは速いですよ(笑)。漁が解禁になるのは5月から8月。種子島全体で獲れますね。屋久島はここから近いですが、海が急に深くなっているので『ながらめ』はいないみたいです。海が遠浅の種子島だからこそ獲れるようですね。『ながらめ』はアワビに似ていますが、アワビのように大きくはなりません。しかしアワビよりも、やわらかいし、甘いし、とても美味しいと思います。鉄分などもあって栄養も豊富ですね。味噌焼きもいいですが、私は天ぷらが好きです(笑)。また、獲れる場所によって肉質も味も香りも違うようです。私が小さい時は、たくさん獲れていて、誰でも獲ることができました。私も獲って、海で焼いて食べたりしていましたよ。けれど、今は獲れなくなって、1kg7,000円ほどもします。稚貝を2月から3月くらいに放流する活動も行なっていますよ。放流して2年ほど育って大きくなったものを獲ります。中には3年〜4年かかる場合もあります。『ながらめ』は『ホンダワラ』という海藻を食べて育つのですが、その『ホンダワラ』の生育が良くないためかもしれません。『ながらめ』は獲れる量も少ないし、種子島内で消費されているので、あまり島外には出ていきませんね。島内でも、集まりごとや、催しものがある時などに食べる、ぜいたくな食材です」。

■種子島漁業協同組合
住所/西之表市西町192
電話/0997-22-0620

「ながらめの味噌焼き」、三様。

三人の料理人が語る、それぞれのこだわりとは

この料理の"味のキーワード"
下ごしらえ

殻から身を外し、よく洗って身を適当な厚さに切る。食べやすいように、切る前に、身に切れ目を入れることもある

味噌

麦味噌や米味噌に、醤油・砂糖・みりんなどを加えて味付けした、作り手自慢の特製味噌が使われている

焼き方

殻に身と肝をのせて特製味噌を塗って焼く。身の食感や甘みを引き出すため、焼き方にも工夫が施されている

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