夏の熊本だけでしか食べられない
身も頭も殻も丸ごといただくエビの仲間
『しゃく』の正式な名前は『穴しゃこ』だが、寿司ねたにあるしゃことはまったく違うもの。日本、台湾、朝鮮半島などの干潟に生息するエビにもヤドカリにも似た生き物だ。日本では熊本や岡山で食べられる習慣がある。干潟に深い巣穴を掘るため、筆を使ったユニークな『しゃく釣り』で一匹ずつ釣り上げられている。
熊本では荒尾、八代などの幾つかの干潟で獲れるが、陸に上がると長くは生きられないため、熊本以外にはほとんど流通しない。したがって、『しゃくの天ぷら』は熊本の郷土料理として昔から地域に根付いているのだ。
しゃくは泥の中にいるので、まずよく泥を落とし、それから衣をつけて丸ごと揚げる。頭も取らず、ワタも取らず、殻もやわらかいのでそのまま揚げて天ぷらにする。そして、食べる時も丸ごと残さずいただく。しゃくそのものが持つ独特の味わいを楽しむために、天ツユではなく塩を添える店が多い。
毎年5月から夏にかけて、しゃくは魚屋に並び、『しゃくの天ぷら』は料理店でも食べることができる。海の味もする熊本の夏の風物詩は、ごはんの友というよりも酒の肴にしたい一品だ。
熊本市民の台所と呼ばれる『田崎市場(熊本地方卸売市場)』。早朝、新鮮な魚介類を取り扱っている『マル五水産』の後藤徳一代表を訪ね、しゃくの話をうかがった。
「しゃくは、大体10cmくらいの大きさで小さいのは小指くらいですかね。大きいほうが高く売れるね(笑)。他の魚ではやりませんが、生きたしゃくを入れた箱には笹を置いています。それは昔からですが、しゃくの元気が長持ちするみたいですよ。しゃくがもっている海の香りというかほろ苦さというか独特の味は、好きな人は本当に好きですね。天ぷらとか塩ゆですると美味しいよ。酒の肴にはしゃくの固い部分だけを外して塩と合わせてすりつぶす『しゃく味噌』が絶品ですね。梅雨明けぐらいから美味しくなってきて、色が赤色というかオレンジ色になってくる。メスはたまごをもっていてね、それがまた旨いよ」。
潮が引いた後の干潟でしゃくを一匹ずつ獲る漁法。潮が引くと、しゃくが生息している干潟には巣穴の入口が表れるが、そこに筆を差し込むと、しゃくは外敵と思い、その筆を押し出してくる。しゃくが入口付近まで来たところで捕獲する。
まず、しゃくについている泥をよく洗い流してきれいにすることが必要。足を取り除いたり、小麦粉のまぶし方を工夫している店もある
しゃくをからっと揚げたり食べやすいようにするため、天ぷらの衣、油、揚げ方には様々なやり方がある
天ツユが付く店もあるが、塩をふりかけて食べるのが基本。しゃくの味をより引き出すため、塩にもアレンジが加えられている
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