九州の味とともに 春

福岡 田川ホルモン鍋

石炭産業で栄えた街・田川を中心に
炭坑マンたちを支えたホルモン料理

筑豊地方は、かつて日本のエネルギーを支えた石炭産業で栄えた。筑豊炭田は、戦前の日本では最大の炭田であり、最盛期には国内出炭量の半分以上を担うほどだったという。筑豊地方の田川市を中心に、炭鉱で働く人々に食べられていたのが『田川ホルモン鍋』。かつては『とんちゃん』、最近では『田川ホルモン鍋』と呼ばれ親しまれている。

味噌ベースや醤油ベースのタレで下味を付けたホルモンを、中央がくぼんだ独特の形をした鉄鍋(当時はセメント袋が鍋代わりに使われており、それを再現した形といわれる)で少し炒めた後、キャベツ・ニラ・モヤシなどの野菜をたっぷりとのせ、野菜がしんなりとしてきたらできあがり。もつ鍋に似ているが、スープで煮込む料理ではない。野菜から出る水分とタレが重なり、ちょうどいい味となる。

ホルモンの旨味、野菜の甘味、タレが一つになった濃厚な味わいは、焼酎にもごはんにもよく合う。ホルモンは牛や豚の様々な部位が使われるので、それぞれの歯ごたえも楽しめる。具材をすべて食べ終わったあとは〆。鍋に残った汁に、まずうどんを入れて食べ、さらにおじやにして食べるという “二度〆”が田川流だ。

筑豊炭田について

筑豊地方では15世紀後半に石炭が発見されたといわれている。遠賀川の水運を利用して江戸時代には大阪にまで流通していたようだ。明治以降、日本最大の炭田へと発展するが、主要エネルギーの転換などの理由で、田川市では1970年(昭和45年)にすべての炭鉱が閉山した。

田川ホルモン鍋について

田川を元気にするために『田川ホルモン鍋』を活用した町おこしに取り組んでいるボランティア団体『田川ホルモン喰楽歩(くらぶ)』の金子和智さんにお話をうかがった。

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●田川ホルモン喰楽歩の歴史
「2008年(平成20年)に町おこしのために発足しましたが、その中心は市役所内の自主研究グループでした。田川の“1番探し”を行なった時に、町外から来ていた女性職員の『田川には焼肉屋が多いですね』という話がきっかけだったのです。田川ではよく焼肉屋を利用しますね。子供の運動会の時とか、なにかの打ち上げで焼肉屋に行くことが多いのです」。

●『ホルモン鍋』の発祥
「なかなかない食べ方だと思うのですが、田川が炭鉱で栄えていた時代、日常的に食べられていて、当時は『とんちゃん』と呼ばれていたようですね。私が子どもの頃も『とんちゃん』と呼んでよく食べていました。『とんちゃん』とは韓国語で内臓を表す言葉で、働きに来ていた韓国の人が作ったのが始まりのようです。炭坑住宅(炭坑で働く人々の集合住宅)には売店があって、そこではホルモンが売られていました。炭坑住宅の跡地は市営住宅になっていますが、今でもその近くにはホルモン屋さんがあるんですよ。最近では『田川ホルモン鍋』と呼んでいます」。

●『田川ホルモン鍋』の料理法
「基本的には、焼肉のタレで下味を付けたホルモンと野菜を、真ん中がくぼんだ独特の形をした鉄鍋で料理します。使うホルモンはいろいろで、牛も豚も使いますし、部位も様々です。野菜もいろいろですね。もつ鍋と違ってスープがたくさんあるわけではありません。ホルモンの上にたっぷりの野菜をのせて火にかけるのです。野菜からは水分が出ますし蒸し焼きのような感じになりますね」。

●特殊な鉄鍋の形の由来
「昔、『平和食堂』という店があり、セメント袋(田川は石灰の産地でもあった)を鍋代わりに使っていました。水分がいい具合にとれるというのもあったと思いますし、洗うのも大変だったからでしょう。鉄板が独特な形をしているのは、セメント袋を鍋代わりにしていたことを再現するためなのです。私も持っていますが、田川でこの形の鍋を持っていればちょっとしたステータスですね(笑)。かつて小倉には戦車工場があって戦車に使う鉄板の端材を利用してこのような鍋を作ったという話もあるんですよ。店では、ステンレス製の鍋や石鍋も使われていますね。家ではホットプレートも使われています」。

●〆について
「『田川ホルモン鍋』の具材を食べてしまったら、まずはうどんで〆るのですが、その後におじやというかチャーハンを食べることが多いのです。美味しい鍋料理の最後には美味しい〆がつきものですが『田川ホルモン鍋』は たいてい“二度〆”ですね。それから、『田川ホルモン鍋』は焼肉屋さんでメニューに出しているところが多いのですが、焼肉を食べた後の〆として、『そろそろホルモン鍋にいこうか』という感じになるんです。そして、さらにうどんとおじやで〆るわけです(笑)」。

●『田川ホルモン喰楽歩』の目指すこと
「B1グランプリに初めて参加したのは2012年。それから『田川ホルモン鍋』が知られるようになってきました。私たちには日常のものですが、『田川ホルモン鍋』を1つのきっかけにして田川のファンを増やしたい、交流人口を増やしたいというのが私たちの願いです。『田川ホルモン鍋』をはじめ、石炭産業によっていろんな人が集まり、田川の文化が作られました。そんな田川の魅力を伝えていきたいですね」。

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■田川ホルモン喰楽歩

https://tagawahormoneclub.jp/
2017年に開催された『西日本B-1グランプリin明石』に参加した『田川ホルモン喰楽歩』のみなさん

「田川ホルモン鍋」、三様。

三人の料理人が語る、それぞれのこだわりとは

この料理の"味のキーワード"
ホルモン

牛や豚のホルモンが使われる。基本的には様々な部位がミックスされており、それぞれの味わいと歯ごたえを楽しめる

タレ

大きく分けると味噌ベースか醤油ベース。焼肉店では焼肉用のタレを使うことも多いが、特製のタレが使われることもある

作り方

タレで下味を付けたホルモンを、中央がくぼんだ独特の鉄鍋で炒める。たっぷりの野菜をのせ、野菜がしんなりしたら完成

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