『ひともじ』の豊かな香り、甘味、辛みを
ぐるぐると巻き込み酢味噌をかけて…
『ひともじ』とは、熊本以外では分葱(わけぎ)と呼ばれているが、熊本で育てられているものは、全体に少し太めで白根のふくらみも大きい独特なもの。生えている形が『人』の文字に似ているから『人文字(ひともじ)』だという話など諸説ある。
この『ひともじ』を軽く茹でて冷やした後、白根の少し上を折り、白根を軸に『ぐるぐる』とまきつけることから、この料理のユニークな名前がついた。いつ生まれたのか、だれがそう呼び始めたのかは定かではないが、江戸時代に生まれたという熊本の郷土料理だ。馬刺し、からし蓮根と並んで、熊本を代表する味として人気が高い。
一口でパクリといただく。ザクッという心地よい歯応えの後に、『ひともじ』が持つ独特の香り、甘味、辛味が口の中いっぱいに広がる。上にかかっているのは甘くてすっぱくて少しピリッとした酢味噌。『ひともじ』の旨味を爽やかにひきたてる。地元の方に尋ねると、ほとんどの方から「小さい頃は苦手だった」という答えが返ってくる。その味に旨さを感じる時…それは、20歳を過ぎて焼酎を飲み始めてからなのだ。
熊本県下益城郡美里町で『ひともじ』を育てている本田かよ子さんを訪ねた。
「『ひともじ』は、8月初めくらいから順番に植えていきます。生命力が強いので、ほとんど手間がかかりません。虫なども来ないです。雨が降らない日が続くと水をやるのと、かんかん照りの時に遮光するくらいですね。植えてから収穫までは約2カ月。その間に、霜にあたると言うか、一度寒い時期を過ごしたもののほうが甘味が増します。冬の終わりから春にかけてが美味しいですね。『ひともじ』は、私たちにとってはごく普通の食べ物です。味噌汁に入れたり、白和えにまぜると彩りもよくなります。私たちは、ゆでて酢味噌をかけて食べることはありますが、手間がかかるので、ぐるぐるにはしませんよ。よっぽど暇な時はやりますけどね(笑)。今はおばあちゃんたちがいる家では作っているかもしれませんが、若い世代はあまり作っていないようですね」。
白根の部分を先にゆで、葉の部分はさっとゆでる。葉の中は空洞なので、その中にある空気を抜くことも必要
白根から数cmのところを折り、白根を軸にして葉の部分をくるくるとまきつける。『ひともじのぐるぐる』という名前の由来だ
味噌をベースに酢、砂糖、塩、ミリン、カラシなどを合わせて作る。味わいの違いは使う味噌の種類によっても異なるようだ
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