阿蘇の自然が育てる阿蘇たかなを使った高菜漬けを、ごはんに混ぜ込む…
今も火山活動している中岳を中心に南北25km、東西18km…巨大なカルデラ地形として有名な熊本県阿蘇地方。この北側外輪山の南に位置する阿蘇市周辺で食べ続けられている郷土料理が『高菜めし』だ。
細かく刻んだ高菜漬けを油で炒めて塩や醤油などで味付けし、白ごはんと混ぜ合わせるのが基本的な作り方。シャキシャキとした高菜漬けの食感と味わいが、白ごはんとよく合う。仕上げにゴマや錦糸卵、海苔などをのせるのは、味と色合いのアクセント。地元の飲食店では『だご汁』とセットになったメニューも一般的だ。
阿蘇の『高菜めし』に使われる高菜漬けの材料は、阿蘇で栽培される『阿蘇たかな』と塩、赤唐辛子など。『阿蘇たかな』が持つ独特な味わいは、寒冷な阿蘇地方の気候によって生まれるもの。平地では生育が良すぎてその味はできないのだという。
毎年秋に種を蒔き、冬の寒さの中でじっくりと育つ『阿蘇たかな』は、2~3月が収穫の時期。収穫と高菜漬け作りの始まりは、春の風物詩でもある。たくさんの手作業から生まれる『高菜めし』の素朴な味わいは、春の陽射しのようにあたたかだ。
小麦粉と水を混ぜ合わせてこねた“だご”が入った汁もの料理。出汁の中にサトイモやニンジンなどの野菜を入れ、煮立ったら“だご”の生地を投入。“だご”が浮かんできたら、味噌を溶き入れる。元々は日々忙しい農家で食べられていた料理だが、今では熊本県を代表する郷土料理だ。国道57号線はだご汁を提供する店が多いことから『だご汁街道』とも呼ばれている。
阿蘇たかなについて、昭和37年から高菜漬けを販売している志賀食品の志賀昭男さんに尋ねた。
「阿蘇たかなは、秋口に種を蒔くと、阿蘇の厳しい寒さの中、冬の間はゆっくりゆっくり育っていきます。冬は害虫もいないし雑草も生えないので、何も手をかけることはありません。そして、あたたかくなってくると、一気に成長します」。
収穫は2月下旬から3月にかけてで、独特の方法で行なわれる。
「『たかな折り』と言いまして、太い茎を一本一本手折りしていきます。食べ頃のものは、茎のある部分に力を加えると、ポキッと折れるんですよ。収穫に適した時期はそれぞれの株で1週間くらいしかありませんから、その時は作業が集中して大変です。早すぎても遅すぎてもうまく折れないし、乾燥した日にやらないといけません。平地のたかなは、茎が太くなりすぎたりして、風味や食感が良くないですね。霜がおりたり雪が降ったりもしますが、阿蘇たかなは阿蘇の厳しい気候からしか生まれないものです」。
収穫されたたかなは、すぐに塩、赤唐辛子、ウコンと一緒に漬けられる。
「昔ながらのやり方で作っています。ちゃんと作らないとふるさとの味の良さが消えてしまいますからね。ふるさとの味を守らないといけないと思っています」。
阿蘇たかな、塩、赤唐辛子が基本的な材料。春先から漬け込み、半年ほどでできあがる。作り手は、塩の加減などに工夫をこらしている
細かく刻んだ高菜漬けと白ごはんをいかに素早く混ぜるのかが重要。桶やボールの使い方、しゃもじでの混ぜ方などが異なるようだ
高菜めしの元祖と言われる『あそ路』のスタイルを踏襲し、ゴマと錦糸卵をのせるところが多いが、独自のトッピングを添える店も